新型コロナウイルス感染拡大の社会経済を知る!

市況分析

新型コロナウイルス感染拡大の社会経済を知る!

新型コロナウイルスによる感染拡大の影響が続く中、 就活中のみなさんにも危機意識が広がっていることと思います。 今回は新型コロナウイルス危機の経済への影響と、政策対応について ご紹介しようと思います。 志望業界や今後の活動について参考にしていただければと思います。 今回のコロナ危機に対して、景気対策を行うことの重要性が叫ばれており 現在給付金や助成金などの支給がすすめられています。 金融財政政策の効果をマクロ経済レベルで考えるには、現在起きている現象が 需要ショックであるか供給ショックなのかを識別することがまずは重要です。 例えば2008年の金融危機(リーマン・ショック)は負の需要ショックと 捉えられており、GDPやインフレ率の低下が観察されました。 この場合には需要を増加させる景気刺激が必要になります。 逆にオイルショック(1970年代)のように不況が供給ショックで起こされていたとするなら 景気刺激策は逆にインフレの加速を引き起こすのみで負の影響を もたらしてしまうかもしれません。 このコロナ危機は、需要ショックとして捉えるべきか供給ショックとして捉えるべきか、 悩ましいケースになっています。 仮に感染者の隔離や営業の自粛によって労働者が生産活動を行えないという側面 を強調するなら、これは供給ショックです。 しかし、所得を得られない労働者が消費を減らしてしまうと考えますと これは需要ショックと捉えるべきかもしれません。 両者で勧められる経済政策は全く逆になりますので、この違いを把握することは非常に重要です。 結論だけ述べますと ** コロナ危機はマクロレベルの需要ショックと捉えられるが景気対策の効果は小さい ** となります。 ## コロナ危機はシンプルな経済理論では供給ショック マクロ経済学者は家計や企業が将来の経済状態を考慮しながら ミクロ経済学的な最適化行動を行った結果として景気循環を説明しようと考えます。 今回のケースでは、主に旅行業や飲食業などface-to-face(F2F)産業にいる労働者が 生産を行えないというショックを考える必要があります。 失業した労働者と失業していない労働者がそれぞれどのような行動を選択するのか を捉えたい場合、構造は簡単です。 この経済にはたくさんの人々がいて、労働と生産を行っています。 また、それぞれの労働者は得た所得のうち一部を現在の消費に回すか、 貯蓄して将来の消費に回すかという選択を行っています。 この経済でコロナ危機は一部の労働者が突然働けなくなり、 それに応じて所得もなくなったというショックとして導入されます。 このショックはF2F産業を捉えるものですが、前述のように 一見すると需要ショックとも供給ショックとも考えられます。 このショックそれ自体はミクロレベルの経済変化ですが、 経済全体への効果をマクロレベルの概念で捉えなおしてみましょう。 具体的には、金利が上がる圧力がある場合を供給ショック、 金利が下がる方向に働くケースを需要ショックと考えます。 実際に前者のケースでは、ゼロ金利などにより金利が動きにくい場合は、 確かにモデル上で財政政策などによる景気刺激策が効果を持ちます。 さて、この労働者が働けなくなったショックについて考えます。 まず、働けなくなった労働者は、現在でもそれなりの生活と消費活動を行うために、 貯金を切り崩すか借金をします。 これは金融市場において貸し手が減るか借り手が増えるため、 金利の上昇圧力をもたらします。 つまりマクロレベルでは供給ショックと解釈されます。 不思議に思われるかもしれませんが、働けなくなった労働者の消費活動により 金利上昇圧力をもたらすため供給ショックに相当するというものです。 実際、仮に金利が上昇圧力にかかわらず動かないとすると、 失業しなかった労働者は低金利のために貯蓄を少なくし、今日の消費を多めに行います。 この行動は消費の加熱に相当します。 ## データは需要ショックを示唆している。 しかし、多くの経済学者は需要ショックであると推測しています。 コロナショック後の人々の消費動向についてビッグデータを用いた研究が2つ出ています。 Baker et al.(2020)はアメリカの銀行口座やクレジットカードを登録すると アドバイスをくれるサービスを提供するフィンテック企業のデータを分析しました。 新型コロナウイルスの危険性が広まった3月初めには 買い占め効果のために消費が大幅に増加しました。 しかし、3月中旬になるとF2F産業の支出が大幅に低下しています。 興味深いことに、人々の移動制限が強く観察される地域ほど F2Fへの支出が低いという相関が観察されました。 これは、ソーシャル・ディスタンシングにより購買が制限されていると解釈されるため 需要ショックと捉えられます。 また、Watanabe(2020)は日本のJCBカードのビッグデータを用いて カード利用者の消費動向について報告しています。 これによると、1月後半から3月前半にかけて、旅行やレストラン、交通、 エンターテインメントなどを中心に大幅な消費の減退が観測され 全体でクレジットカード消費は14%減少しています。 この統計では価格と数量の区別を行うことはできませんが 支出の大幅な落ち込みは、価格も数量も両方低下する負の需要ショックを示唆します。 2つの論文で注目すべきは、F2F産業とその他の産業で違う動きが見られるという点です。 Baker et al.(2020)は、コロナ危機が顕在化する前と比べても 買い占めがひと段落した3月後半のスーパーマーケット等での消費は 落ち込んでいないことを示しています。 Watanabe(2020)も、スーパーマーケットのレジで記録されるPOSデータを用いて 3月初めの買い占め効果がひと段落した後も スーパーマーケットの商品価格や支出は昨年と比べても堅調であることを示しています。 上記のような動きは、マクロ経済レベルでは負の需要ショックが起きたものの、 需要が落ち込んでいない産業や、むしろ一時的に需要が伸びた産業も 存在することを示唆します。 スーパーマーケットで言えば、買い占めが収まった後も外食という F2F産業を家での食事が代替するようになり、 食料品の需要が増えたという効果が考えられます。 コロナショックを理論的に解釈するためにも、この産業ごとの影響の差が重要になります。 ## 影響を受ける産業を分ければ、コロナショックは需要の低下となる Guerrieri et al.(2020)は、基本となるモデルを拡張してコロナ危機で生産が止まるF2F財と、 そうでない財の2種類を導入しました。 モデルの上で、旅行産業が止まったとしましょう。 前述のように、旅行産業で失業した労働者が働けなくなったショックによって、 金利には上昇圧力があります。 しかし、ビッグデータを用いての消費動向にも見られるように 旅行業界関連の商品についてはこの場合、買うものが少なくなってしまうため 失業しなかった労働者も消費を減らして貯蓄を増やす行動に出ます。 これは金融市場で資金供給を増やすことを意味し、金利には減少圧力がかかります。 まとめると、仮に財の区別がない場合はコロナショックは供給ショックであるが、 生産や購買制限の影響を受ける財と受けない財を区別して、 かつ2つが補完的である場合には需要ショックが生じうることになります。 ## しかし政策の効果は小さい それでは、景気刺激策が望ましいと言えるのでしょうか? 興味深いことに、通常の需要ショックと違って このケースは政策が有効ではあるもののその効果は小さいと考えられます。 通常のケースでは、財政政策を行うとそれによって収入を得た労働者が さらに支出を行うために乗数効果が生まれます。 しかし、コロナショックは確かに需要ショックと解釈されるものの、 乗数効果が生まれません。 仮に政府支出が増加したとしても、失業者の多い産業は供給が止まっているため このお金は救済の必要な業界以外の買い上げに回されます。 しかし、この労働者はコロナによる収入減の影響を直接的には受けておらず 困窮していません。 このため、政府支出によって収入が増大してもそれは貯蓄に回ってしまい、 追加的に消費を増加させないのです。 この結論は仮に旅行産業などの労働者に生活保障を与えても同様です。 このお金はそれ以外の産業に回るため、結局困窮していない労働者の所得となり、 乗数的な効果が起きないのです。 今回はみなさんの就活にあたり、志望業界だけでなく、政府や社会全体の動向に 目を向けていただければと思いご紹介いたしました。 今回のトピックの他にコロナウイルスの伝搬に関する疫学モデルを 取り込んだ経済分析が、今も目まぐるしく行われています。 かつてない状況下での就職で、みなさんのキャリアのために 今後も情報を提供していけたらと願っております。 文献 Baker, Scott R., R.A. Farrokhnia, Steffen Meyer, Michaela Pagel, and Constantine Yannelis, “How Does Household Spending Respond to an Epidemic? Consumption During the 2020 COVID-19 Pandemic,” University of Chicago, Working Paper, 2020. https://bfi.uchicago.edu/working-paper/how-does-household-spending-respond-to-an-epidemic-consumption-during-the-2020-covid-19-pandemic/ (3月31日付) Watanabe, Tsutomu,“The Responses of Consumption and Prices in Japan to the COVID-19 Crisis and the Tohoku Earthquake,” Working Paper Series, CARF-F-476. https://www.carf.e.u-tokyo.ac.jp/en/research/4463/ (3月30日付、以下に紹介記事があります) https://voxeu.org/article/responses-consumption-and-prices-japan-covid-19-crisis-and-tohoku-earthquake
この記事を監修した人
平塚
代表取締役 平塚ひかる
年間で10万人が利用する就職サイトチアキャリアを運営する株式会社Cheer代表取締役。
新卒で入社した会社を3ヶ月目の22歳で役員に。1年目で営業成績1位、全社MVP。営業・マーケや開発・広報・人事管轄の取締役として従事したのち独立。
第一回日本中小企業大賞三冠・三年連続受賞したのち殿堂入りし、審査員就任。
東京都の【多様な主体によるスタートアップ支援展開事業】分科会審査員を2期連続担当。
意思決定層のジェンダーギャップに取り組む「スポンサーシップ・コミュニティ」発起人を務める。


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