仕事が上手くいかない夜、胸の中にヒーローを
ヒーローに求める救い
毎日仕事をしていると、当然失敗もするし、苦しいときもたくさんある。
どんなに思い悩んだ夜でも、無情に時間は過ぎていくし、しみるような朝陽を憎たらしく思いながら新しい一日を始めることだって、一度や二度ではない。
仕事が好きだって、面白い企画やプロダクトに関わっていたって、ぼくたちはいつだって理想よりもちょっと力不足で、それは決して「楽しい」だけでは表現出来ないのだ。
自分の力の無さに絶望だってするし、全部投げ出して逃げ出したくなったりもする。
だからぼくたちは、そんな自分を許して、慰めるために、ヒーローに頼るのだ。
ある時、ヒーローはアニメのキャラクターとして
ある時、ヒーローはバットできれいなアーチを描いていて
ある時、ヒーローは映画の主人公で
ある時、ヒーローは居酒屋の向かいに座って大きく笑い
ある時、ヒーローは電話越しにやさしい言葉をかけてくれる
ぼくたちはそんな日替わりでヒーローたちに頼りながら、明日はもっと最高な仕事をするんだと、深い眠りにつく。
さて、そんな数多くいるヒーローの中でも、特に自分の仕事観に大きく影響するヒーロー像というものは多くの人が持っているし、そういう人の言葉を大切に胸にしまって、まるでお守りのように大事な時にそっと取り出してそれを握りしめる。
ぼくは、27歳で6社目なので正直人よりもとんでもない数の失敗も経験してきていると思うし、何も出来ないと嘆く回数も数えきれないほどだ。
ヒーローの持つ狂気と覚悟
そんなぼくのヒーローは「リリー・フランキー」という名前で映画俳優や絵本作家やコラムニストをしている。
彼はひどい寝坊癖があり、基本的にほとんどの打ち合わせに遅刻する。大学はゲームのしすぎで留年し、卒業制作もゲームのプレイ画像を提出した。大学を卒業してからニート期間を経て、コラムニストになってからも大量に仕事を引き受けては締め切りに間に合わず、連載を落としていた。
それでも、彼はあらゆる失敗を「仕方のないこと」と開き直り、画家としての活動に「おでん君」などの絵本作家活動、果ては「東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜」という大ヒット小説を生み出した。映画俳優としても多くの賞を受賞し、映画界になくてはならない存在として認知されている。
ぼくは彼の生き方に大きな勇気をもらっている。
どれだけ人から指をさされて笑われても意に介さず、思うがままに新たな挑戦をし、大量の失敗と誰もが見たことのない価値を生み出している。
そんな彼の言葉で最も衝撃を受けたものは宮沢りえさんとの対談で発言した
「僕はね、監督が言うなら歯ぐらいなら全部抜いてきますよ」
という言葉だ。そこにある狂気的な覚悟に、泣きそうなくらいに震えた。
そのフラットな、あくまでも冷静な仕事への姿勢はぼくが目指したい姿そのもので、そこからぼくは、彼がどんな仕事でも「得意です!」と答えて、受けてから勉強するようにしていたということを知り、入社する先々でたくさんの仕事に挑戦し、そのほとんどで大きな失敗をした。
ぼくが失敗を繰り返し、枕を濡らして凹む夜に思い出すのは「もし、本当に才能というものがあるのだとして、その最低限の才能とは自分に出来ることを見つけることではなく、自分には出来ないことを発見できる眼である。」という言葉で、これは失敗に対する勇気だと、常に自分の胸に忍ばせている。
プロはいつでもベンチャーのさなかにいる
ぼくはこれからもたくさん失敗して、その分だけ落ち込んで悩むだろう。
それでも、何度でもベンチャー企業に挑戦しているのは、やっぱり出来ないことを発見する眼が何よりも肥える環境だから、ぼくはここから離れることが出来ないでいる。
仕事がきついとか、つらいとか思う人ほど、思い出して欲しい。
ぼくたちのヒーローは、いつだってドベンチャーな環境で飄々とした顔を見せている。
もっともっと面白いことがしたいと新しいことに挑戦して、たくさんスベって、百回に一回くらい社会に大笑いを与えられれば、また頑張れる。
最近、また一つ新しく彼の言葉を忍ばせている。
「面白い」って思われることは、「不快」だって思われることもあるっていうことだよ。