Stairway to Heaven

2024.05.16

Stairway to Heaven

オフィスが移転するらしい。
クラブ街の中にひっそり佇むマンションの2階へ越してきて、多くのドラマがあった。大河のようだと感じるけれど、これが移転から1年も経っていないのだから、不思議な話だと同僚が笑った。

そんなオフィスで行う最後の全体報告会があった。
全体報告会というのは、うちで毎月やっている事業の進捗や会社の方針発表である。

私は代表の斉藤が話す方針を毎月楽しみにしている。
話を聞く度、この人はスティーブ・ジョブズではないなと思うのに、彼の話す内容はAppleの新製品よりもワクワクするのだ。

斉藤の姿勢には演劇性がない。
あるとしてもジョブズのそれに練習の面影がないのに比して、斉藤には「挫いた足首」が垣間見える。
その等身大さが、ひとつの魅力だと思う。
少年時代に感じた理想や欲求が、そのまま大人になったような。
社会の現実とか空気とかそういったものに少年時代の心は揉みくちゃにされてしまう諦念を気に介さず作り上げられた非常識さが、拠り所を得たような。そんな感じ。

そんな代表が作るLimeのミッション・ビジョンはこうだ。

「イノベーションで新しいスタンダードを」
「世の中に広がるブランドを創造する」

そもそも世の中は換骨奪胎で発展してきた。
一般化されたベースがあって、そこをあえて迂回するような新機軸。ゆえに新機軸は旧態なくては存在し得ない。
だが旧態とは綻びを顕にして崩れゆく黄昏であり、それは閉塞した現代日本を浮かび上がらせる。

正誤はあれ、革新とはそういった打破すべき旧態への挑戦である。

歴史を振り返れば、偉人にしろ芸術家にしろそれが反発を呼び起こしながらも、確かな社会や通俗観念への問題提起を招きムーブメントを作り上げスタンダードになっていった。

ブランドは、そんな創作者のコンセプトの具現化である。
事業という媒介を用いて、この会社が何を表現するのか。それが与える問題提起はこの社会に何を残すのか。

それが楽しみだ。

でもロックンロールがそうであるように、この会社が起こす事業が陽の目を浴びない人々の反骨魂の叫びであるのなら、成功した先=新たなスタンダードになった時が怖い。

その先に待つのは、新たな若者に打破されうる老いた仇への変貌であるから。

1番になりたいともがくのに、そうなった先には自惚れと保身の怯えしかない。
絶頂を望むのに、果てた後には倦怠感。そんな行きずりの夜。

でもきっとこの会社は日本のスタンダードを作ったなら、世界のスタンダードに挑戦し、それも終えたら宇宙のスタンダードに飛び立つのではないだろうか。

そんな未来が見えるから、私は何があってもここを出る気には到底なれない。

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